SSSでは様々な行政受託事業をおこなっていることを以前のコラム(※)でも触れましたが、今回は2011年より「八王子市地域生活安定化支援事業」として設置している『さくら館』を紹介させていただきたいと思います。
施設(無料低額宿泊所)に入居してから地域のアパートへどのように移行したのか?実際の話を当事者であるAさん(男性・74歳)の引っ越し先で聞かせていただきました。
※(参考コラム)
車上生活からアパートへ
行政受託事業を通じた自立支援の実際
https://www.npo-sss.or.jp/column/detail20191113/
「自分の部屋から富士山が見えるんですよ。今日も朝からきれいでしたよ(笑)」
待ち合わせした『さくら館』から八王子の街中を歩きながら、Aさんはうれしそうに教えてくれました。(画像は実際にAさんの部屋から見えた富士山)
地域のアパートというより賃貸マンションの1室にAさんが引っ越したのは、約2か月前のこと。SSSが八王子市より受託し、運営している『さくら館』のスタッフと一緒に4つほど物件を見てまわり、運よく「2日前に空いた」という物件を最終的に契約することができました。
「周囲に迷惑をかけないか」「問題を起こさないか」など大家さんが毎年、契約更新の可否を判断することが条件の1つになっているそうですが、賃料が生活保護費の基準内に収まる奇跡的な物件です。
Aさんがこの物件にたどり着くまでにどのような過去があったのか、話は約3年前にさかのぼります。
Aさんの仕事は元とび職。30年以上、同じ会社で建築業に従事していました。
長年ハードな仕事をこなしていましたが、60代半ばに差しかかると高血圧や心臓疾患が発見されるなど徐々に体調不良が目立つようになり、最終的には72歳で引退の道を選択します。
2017年10月、これまで住んできた社員寮を出ていくことになったAさんは、「ほかの仲間も生活保護になっていたから」と市役所に相談し、SSSの運営する無料低額宿泊所に入居することになりました。
その後、療養しながら施設生活に慣れていきましたが、「自分は人に管理されるのが好きじゃない」と、職人気質ものぞかせるAさん。
「いずれ部屋を借りたい」と入居当時から地域生活にむけて強い意志をもち、自分なりに目標を立てて実行していきます。
その1つとして、2019年からは毎日の生活費をノートに記録。そして、周囲のスタッフがそれを後押しすべく、『さくら館』による居宅移行支援もスタートしました。
入居施設から『さくら館』へ週1回通所してスタッフと面談し、生活費の収支管理を一緒に考えていくことで、ムダな支出を抑え、支給を受けた生活保護費の中から毎月貯金もしていきました。
「八王子市地域生活安定化支援事業」としてSSSが運営する『さくら館』の支援は大きく分けて2つ。
1つは原則6ヶ月間の「通所支援」。転宅を目標とするご本人が『さくら館』に定期的に通いながら、面談やレクリエーション、ボランティア活動を通じ、自己管理能力の向上を目指します。(生活費管理、安全管理、衛生管理、食生活、コミュニケーションなど)
もう1つは「訪問支援」。不動産屋への同行支援をへてぶじに地域のアパート等へ引っ越した後も2ヶ月間の支援期間を設け、地域で安定した生活を送っていけるようスタッフがアフターフォローを行います。
Aさんは、2019年7月に『さくら館』の利用をスタートし、約5ヶ月後の12月に冒頭の物件に引っ越し、2ヶ月間の訪問支援をうけました。
そして、訪問支援が終了しても、Aさんと『さくら館』のつながりは終わりません。
というのも、これまでAさんは週1回のボランティア活動にも積極的に参加。
通院などの用事と重ならない限り、駅前通りのゴミ拾いや落ち葉の清掃をしてきました。
「ヒマしててもしょうがない」とAさん。
転宅後の日課にしている「1日1万歩の散歩」と同じく、『さくら館』に顔を出すことを継続していこうと考えているそうです。
ひととおりの話を聞いて「Aさんは自分の力だけでも転宅できたのではないか?」という素朴な疑問が湧いてきましたが、Aさんは「『さくら館』を利用してよかった」と振り返ります。
Aさん曰く、「自分はわがまま。一旦、イヤになったらずっとそのまま」
「自分が不安になってもスタッフが親身になって希望を与えてくれた」
一見すると几帳面で自活力もありそうなAさんですが、ふと自分の気に入らないことがあった時、「自分の言いたいことを言っても、それに対して本音で返してくれて、その都度、納得できた」とのこと。
「自分にとって、ありがたい場所。自立をしたい人がいたら、きっといい」
Aさんは、自分より若い世代に「生活を立て直せるかどうかは、お金の使い方と貯め方次第」とエールを送りつつ、「東京タワー、スカイツリーにもう1回登りたい」と自分のこれからの目標を語ってくれました。
・支援対象者:15名 ・転宅者:8名
・通所支援 :356回 ・訪問支援:323回 ・同行支援:190回
・連絡調整 :653回 ・ボランティア参加:319名(計33回実施)
文(聞き手):竹浦史展
取材日:2020.2.27
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