2018年6月、国は生活困窮者に対する包括的な支援体制を強化すべく、生活保護法および社会福祉法の改正を行いました。
これは、無料低額宿泊所を運営する事業者のうち、悪質な事業者を規制しつつ、
一方では、生活支援を行う良質な事業者が活動しやすい環境づくりを進めていくことを意図したものです。
さらに、単独での居住が困難な生活保護受給者への日常生活上の支援を、サービスの質が担保された「日常生活支援住居施設」に委託できるしくみの創設も検討されているところです。
各地域においては、これまでも数々の支援団体や関係機関が生活困窮者の支援にあたってきましたが、今後は公的な支援予算が投入されることから、支援者個人のスキルUPだけではなく、組織としての支援力をより向上させる必要性が高まってきています。
今回のインタビューは、SSS神奈川支部に所属するスタッフたちを指揮するポジションを務める、髙井拓馬(たかい たくま・39歳)にスポットをあてます。
髙井の前職は大手物流会社のセールスドライバー。
若い頃からスポーツで鍛えたフットワークの良さと、持ち前の親しみやすい性格をいかせるこの仕事を「ずっとやっていこう」と思っていました。
ところが、30代半ばにさしかかった頃、盲腸で4日間入院してしまいました。
そこでふと
「体力勝負のこの仕事をいつまでやっていけるかな。体が壊れたら終わりだな」
と急に不安が押し寄せてきたそうです。
それと同時に、仕事への「やりがい」にも疑問を感じはじめました。
事業規模の大きいこの会社では、仕事はすべてがトップダウン。
上からの指示に従い、同じルーティーンをこなすだけの毎日。
接客する中で「もっとこうしたい」「こうした方がいいのに」そう思うことがあっても、自分の意見が通る雰囲気や裁量が認められることはありませんでした。
ちょうどその頃、知人を介しSSSの求人募集の話が舞い込みました。
「生活困窮者を支援する仕事ってどんな仕事だろう。福祉は未知の世界。自分にいったい何ができるのだろう」
不安はありましたが、「人のためになにかできる」仕事に、強く惹かれ転職を決めたといいます。
というのも、髙井は一時期、報道カメラマンを夢見ていた頃がありました。
紛争地域で起こる事実を写真におさめ世界に発信する。
そのことで何かが変わり「人のためになる」
そんな仕事がしたいと前々から思っていたのだそうです。
SSSに入社した時の印象について聞いてみると、
「前の仕事とは真逆でした。いろんなことを皆が自分たちで考えて生み出している組織なので、すごくいいなあと思いました」との答え。
「人のためになる」仕事にやりがいを感じた髙井は、以来約5年間、
貪欲に学ぶ姿勢を忘れず、がむしゃらに利用者支援にあたってきました。
そして今では、上司の指導のもと他のスタッフを引っ張る存在になっています。
2019年3月末現在122カ所あるSSSの無料低額宿泊所には、施設管理者として施設長を配置しています。
適正な事業運営を行うためには、これら施設長たちとの協力関係が欠かせません。
髙井は現場を一番知っている施設長との関係性を最も大切にしています。
「同じ目的をもって、目指すゴールは一つだけど、アプロ―チの仕方は人それぞれでもいい」
定めた目標を達成するために、単に指示を出すのではなく、どうしたらいいかを必ず提案してもらうようにしています。
「人から言われてやらさせるのは、前職でずっと僕がやってきたこと。
それだとスタッフの気持ちを置き去りにしてしまう」
スタッフの意見をきき、一緒に考えることで信頼関係ができ、ともに助け合えるチームになる。
お互いに相手を尊重し、目的や仕事の進め方を共有するといったチームならでは利点がここで発揮されているといえます。
髙井が考える神奈川支部の強み、それは
「チームでのきめ細やかな支援」
SSSに入所する利用者の多くは、高齢者であるか、疾病や障害を抱えている人たち。また、最近の調査では、障害や介護の認定を受けていなくても何らかの日常生活や社会生活に支援を必要とする人が多いことが報告されています。
こういった人たちにとってきめ細かい日々の支援や見守りは不可欠で、
施設に常駐する職員だけでは対応しきれないケースもあります。
このため、神奈川支部には3名の支援員を配置しており、そのうち2名は女性の有資格者をおいています。
関係機関や社会資源、そして施設長や支部職員と連携しながら、支援員は施設を回りその人ごとに個別の対応をしています。
最近あった入所のケースは、病院を退院予定の障害を持った方の対応。
本来ならグループホームに入所して就労継続支援B型に通所したいが、これまでグループホームでの生活歴がなく、すぐには入所が難しいとのこと。
一旦宿泊所に入所して通所の実績を見てからグループホームに移行したいとの要望に対し、さっそく支援員は病院へ出向きご本人や看護師と面談しました。
軽度ながら知的障害があることから公共交通機関による自力での通所は困難であると判断し、近隣徒歩圏または送迎のある就労継続支援B型事業所がある宿泊所を選定。さらには事業所を実際に視察して回り、数カ所の候補をご本人に提案して、一緒に見学した上で入所に至りました。
このように、支援員とも連携し、可能なかぎりスムーズな入所をコーディネートすることにも力を尽くしています。
2019年4月には川崎市内に女性専用施設の開設も決まっており、今後ますます支援員が力を発揮する場が増えていくはずです。
SSSに来る相談者のほとんどがほかに「行き場がない人」
そして一人ひとり抱えている問題は様々です。
こうした支援を必要としている人たちが自立に向けて進むためには、
何事も支援者個人の能力だけでは限界があるのではないでしょうか。
組織の中で多様なメンバーがお互いに「どうしたらいいのか」「何ができるのか」を考えることで、困窮者を支えるチカラは何倍にも増幅させることができます。
「スタッフや施設長が、SSSで働いていてよかったなと思えるように、やりがいを持てるようにしたい」
チーム力を育てることが、行き場を失い困っている人に、より良い支援を提供できることにつながる。髙井はそう考えているのです。
文(聞き手):梅原仁美
取材日:2018.10.19
1979年8月生まれ/2013年入社
特定非営利活動法人エス・エス・エス(NPO SSS)
神奈川支部 副支部長
身長185cm
キャッチフレーズは「背の高い、髙井(たかい)です!」
「自分は、人の3倍頑張らなきゃ」といつも思っている。
〔お問い合わせ〕
NPO法人エスエスエス 神奈川支部
0120-776-799