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更新日:2018.10.03

「任されるたびに自信が湧く」
30代の困窮男性が絶望から自立するきっかけ

当事者インタビュー:Wさん(男性・37歳)

#東京 #30代 #児童養護OB #施設内ボランティア

絶望すると「生きる意欲」がなくなる

「何もかもが嫌になって、何もしたくなくなった」
人は、あまりのできごとにショックをうけ、絶望すると「生きる意欲」を失うことがあるのかもしれません。

また、そんな時、「何のために生きているんだろう?」と自問自答し、「誰からも必要とされていない」と結論づけてしまうこともあるのではないでしょうか。

これらの言葉は、実際に1人の男性が口にしたもの。

今回の当事者インタビューは、かつて大切な人を失ったことをきっかけに路上生活に陥ったものの、無料低額宿泊所の「施設内ボランティア」を通じて自立するきっかけをつかんだ男性のお話です。

施設内ボランティアとして活躍

「こんにちは!」
インタビューの当日、顔をあわせるなり、爽やかな笑顔であいさつしてくれたのはWさん(37歳)。2018年4月に向原荘(東京都の無料低額宿泊所)の利用を開始し、4か月が経過したばかりの男性です。

父親を知らずに育ち、児童養護施設の入所経験もあるWさん。
「もし、自分に父親がいたら、こんな感じかな?」と信頼をよせる向原荘の施設長からの声かけがあり、「施設内ボランティア」として食事づくりなどで活躍しています。

「アットホームな場所をつくりたい」

「あったかいごはんがあって、帰るところがある」
一般的な「家族」を経験したことのないWさんにとって、「いってらっしゃい」「ただいま」といった何気ない言葉をかけあう向原荘は、「みんな家族のようなつきあいができる場所」だといいます。

また、Wさんは「アットホームな場所をつくりたい」という想いをもって施設長を手伝い、他のボランティアメンバーと協力しながら、施設内の清掃や美化、病院や区役所への同行支援なども意欲的におこなっています。

「大変だけど楽しい!」と自立にむけて充実した毎日を過ごしているWさんですが、過去には、同居していた母親と家族以上の存在であった勤め先の社長を同じ日に亡くすという、言葉では表しようのない経験をしました。

大切な人を2人同時に失う

Wさんが絶望を味わったのは約4年半前、32歳の時。
この頃は同居する母親の介護をしながら、水道配管の加工をする会社に勤めていました。

脳腫瘍をきっかけに介護状態になってしまった母親の食事をつくり、入浴やおむつ交換などをする毎日。仕事との両立は大変でしたが、食事や旅行などに連れっていってくれたこともある勤め先の社長の存在がWさんにとって大きな支えになっていました。

ところが・・・。

この社長に末期のがんが見つかり、ほどなくして他界。
そして、何のめぐりあわせかはわかりませんが、社長が他界したのと同じ日に母親が急変し、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。

ホームレス状態から自立支援センターへ

冒頭にあるように、「何もかもが嫌になって、何もしたくなくなった」と絶望したWさん。
「生きる意欲」を失い、「なんでオレひとりだけ置いていった」と悲嘆にくれ、家も仕事も丸ごと放り捨てるようにして、バッグ1つで路上にでます。

それから約1年、Wさんは東京と埼玉を延々と歩き続けるホームレスになりました。

所持金がなく、食事をまともにとっていなかったWさんの体重は72kgから48kgへ。通りすがりの女性がパンやスポーツドリンクを買ってくれたことをきっかけとして、福祉事務所に相談することができ、行政の設置する自立支援センター※に入所できることになりました。

※東京都と特別区が共同で実施する路上生活者対策事業に基づく宿泊を完備した自立支援施設。

施設内ボランティアがリハビリになる

その後、自立支援センターを経由し、住み込みの仕事を見つけたWさんでしたが、人間関係のトラブルで退職。その時に精神的に追い詰められた影響からか、抑うつ状態となってしまいました。

再び福祉事務所に相談したところ、「いまは、期限のある自立支援センターを利用する時じゃない」「焦らずじっくり」とアドバイスをうけ、再就職にむけたリハビリとして向原荘への入所を勧められました。

そして、Wさんが「なんでも相談できる」という施設長に出会い、「自分の経験を生かせるなら」と施設内ボランティアを引き受けました。

はじめは気分の浮き沈みがあり、「みんなに認めてもらおうとムリしがちだった」とのことですが、食事づくりのほか、退去後の居室清掃や他の利用者の通院のつき添いなど、「任されるたびに自信が湧いた」といいます。

「ボク自身、助かっているし、助けられている」

最近では「良い意味でのプレッシャー」を感じ、施設内ボランティアに責任感をもっているWさん。
向原荘で生活する今を「自分にとってのラストチャンス」と捉え、先立った大切な2人やこれまでお世話になってきた人達の期待にこたえたいと考えています。

また、同時にWさんは、「そろそろ(施設を)出てもいいんじゃないかな」と心身のリハビリが進んでいることも実感しており、以前から密かに憧れてきた介護業界への就職活動をスタートする予定です。

「ボク自身、助かっているし、助けられている」
照れくさそうに話す表情をみて、Wさんが介護の現場で働く日は、そう遠くないと感じました。

人は絶望を経験しながらも、誰かに頼られ、必要とされることで立ち直るきっかけをつかむことができるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

文(聞き手):竹浦史展
取材日:2018.8.21

向原荘(無料低額宿泊所・定員26名)

東京都板橋区向原1-20-3

[お問い合わせ]
NPO法人エスエスエス 東京支部
0120-346-850

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