生活困窮者のための自立支援施設である「無料低額宿泊所」。
皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
「狭くて汚なくて薄暗いイメージ」「お金を搾取されそう…」など正直あまり良いイメージを持たれないことがあります。
実際に私たちの施設に入所する方の中には「個室もあるんですね!」「お金を自分で管理できるとは…」「インスタント食品ではなく、温かいご飯を食べられるなんて」などプラスの意味でギャップを感じたという方も少なくありません。
今回ご紹介するのは、私たちの施設から自立していくことに葛藤を感じているAさん。「健康な自分は働いて自立せねばならない」と頭ではわかっていても、居心地の良い生活から抜け出す覚悟が持てない。そんなふうに日々悩んでいるのだそうです。離れがたくなる施設とは一体どんな施設なのでしょうか。
まずはAさんが入所に至った経緯からご説明させてください。
18歳から60歳までずっと設備の仕事をしていたAさんが生活保護を受けるようになったのは、2016年。
きっかけを聞くと「引き金になったのは借金ですね。本当に魔が差しただけなんですよ」とAさん。60歳で仕事を失ったAさんは、なかなか再就職先が決まらないことによるストレスから、ギャンブルに手を出してしまいます。
「少しだけ」のつもりで始めたギャンブルでしたが、気付けば、手元にあるお金はなくなり、ついに消費者金融へ。自宅を売りに出さなければ返せないほど借金は膨れ、妻にも離婚を言い渡されます。
その後は自宅を売り、借金を返した残りのお金と年金を切り崩しながら、アパート暮らしをしていましたが、それも長くは続きません。お金が底をつき、逃げるようにアパートを出て、とうとうホームレス生活を送るようになりました。
食べ物を拾ったり、ゴミ箱をあさったりしながら、何とか生きていたAさん。
2016年の年末、炊き出しに並んでいたころ、SSSとは別の団体に声をかけられ、生活保護を受けるようになったのです。
「このまま外で生活するのも寒いし…」と軽い気持ちでSSSとは別の団体が運営する施設に入所したAさん。個室で、門限はなく、出入り自由という1人暮らしと変わらないような条件だったため、入所を決めたのだそうです。
しかし、少しずつ疑問を感じるようになります。10日分の食料だと6000円で買わされた食料パックの量が、どう考えても足りないこと。銀行のカードと通帳を預けなくてはならず、支給される生活保護費をすべて管理されること。
「おかしくないか?」と意見を言っても、聞く耳をもたない代表。考え方の違いで度々ぶつかるようになり、Aさんはわずか3ヶ月で退去を言い渡されます。
以前の施設を退去したAさんは、ケースワーカーの紹介からSSSの施設へ入所。すぐに「雰囲気が全然違って驚いた」といいます。
「何が違うって、他の入所者との交流が当たり前にあるんですよ」と一言。
朝・夕と施設内で作っているご飯を揃って食べるため、他の入所者と話す機会がたくさんあるといいます。「みんなでバカやったり、冗談言いあったりして。ほんとにくだらない会話なんだけど、楽しいよね」とAさん。気の合う仲間ができたという感覚だと笑顔で語ってくれました。
Aさんが毎日を楽しいと感じている理由は、入所者同士の交流だけではありません。「施設長の作業を手伝ったりしてるんですよ。ほら、ここの施設長は木工とかの作業が好きでしょ?だから、雑談しながら草むしりしたり、木材でイスとかテーブルを作ったりして…それも楽しいんですよ」と嬉しそうに話すAさん。
「あと…ほら自分は設備屋だから、ひびが入っていた壁を補修したり、風呂場とかトイレのタイルも直したりしてね。施設長には“そこまでやってくれなくていいよ!笑”って言われたけど、なんか気になっちゃってね。みんな喜んでくれるし」。
一緒に笑える仲間がいることだけでなく、自分が誰かの役に立っていることを実感する日々。充実した毎日を送っているからこそ、Aさんはある葛藤を抱えるようになりました。
今後について聞いてみるとAさんは少し言いづらそうに「実はケースワーカーさんからはもう自立していいって言われてるんだけど…ここの居心地が良すぎて、出る覚悟がないんですよね」と言葉を選びながら、話してくれました。
これまで饒舌だったAさんが少し考えてから紡いだのは、「健康なのに何してるんだって思われちゃうよね…!」という言葉。
Aさんが入所している施設には、糖尿病などと闘っており、健康面の問題で働けない方も多いのが現状。しかし、Aさんは元気で、働こうと思えば、働ける体。だからこそ、葛藤がある。
「元気だから、ここを出て働いて自立しなくてはいけない。でもせっかく見つけた居心地の良い場所を離れたくない」と悩んでいるのだといいます。
「特に施設長と離れるのがいやかな。あの人は、優しくした分だけ返してくれる。会話も家族みたいで。それに、バカ言い合える仲間もいて。それがなくなると1人になって、引きこもりになっちゃうかも(笑)」と冗談のように話す口ぶりとは異なり、表情は硬いように見えました。
Aさんが自信を持って、この施設から自立できるように、私たちはどんな支援ができるのでしょうか。
施設から地域のアパート等へ自立するということは、単身者の場合、日常生活のすべてを1人で完結していくということを指します。
とはいえ、生活保護を受けている限りは、ケースワーカーのサポートを受けることができますし、シルバー人材センターなどで仕事を斡旋してもらえば、同僚もできる。
それでも、家に帰れば、1人という事実が、自立の壁になっているのだとしたら…。
私たちはもっと継続的な支援を強化していかなくてはならないのかもしれません。
本来、良いことであるはずの「自立」が「孤独」とつながるものであってはいけないと強く感じるインタビューとなりました。
聞き手:竹浦史展、文:中村まどか
取材日:2018.7.23
東京都小金井市梶野町2-16-6
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NPO法人エスエスエス 三多摩支部
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