今回のコラムのテーマは「人工透析」
みなさんもどこかで耳にしたことがあるワードなのではないでしょうか?
「腎臓病が進行し、慢性的に腎不全の状態になると、腎臓の機能にかわる療法として人工透析が必要になる」
私が人工透析について、うっすらとわかっていたのはこの程度の内容でしたが、今回のインタビューを通じてもう少しくわしい内容を知ることができました。
生活に困窮した人の日常生活を支援する施設「幕張荘」(千葉県内の無料低額宿泊所)でくらし、人工透析をうけるYさん(男性・81歳)
Yさんには聴力障害があるため、限られた範囲のうけ答えをもとにした当事者インタビューをお届けします。
Yさんが幕張荘の利用を開始したのは2002年1月から。
かれこれ16年以上も入所していることになります。
過去に自衛隊員、クリーニング店の自営、警備員をへて失業。
家族との離別も経験し、1年間はホームレス生活を送っていました。
公園で暮らしていたYさんは、ある日、突然、尿が出なくなり救急搬送。
1か月の入院の間に腎不全と診断され、退院後に幕張荘で生活することになりました。
腎不全に陥ったYさんは人工透析を欠かすことができず、(毎週)火・木・土は病院の送迎をうけて通院しています。
たとえば、この夏の酷暑の中でも朝8時半には玄関先で送迎車両を待ち、大雨が降っても、雪が降っても週3回の人工透析を必ずうけてきました。
人工透析にかかる時間は4時間程度。
めまいを覚えることがあるなど、気分が悪くなるため、透析中に新聞や本を読むことはできず、まどろみながらテレビを眺めます。
透析を終えて幕張荘に帰ってくるのは午後3時半。
施設長が出迎えると足元がおぼつかず、フラフラしていることも。
さらに、病院から連絡が入り、「今日は具合が悪いので泊まってもらいます」とたびたび帰れなくなることがあります。
そして、透析のない日はどうしているかYさんに尋ねると、
「疲れてるから寝ちゃうね」とのことでした。
ノバルティスファーマ株式会社の運営するwebサイト『家族と考える慢性腎臓病サイト~腎援隊(じんえんたい)https://jinentai.com/』によれば、Yさんと同じように透析をうける日本人は約32万人。そのうち約6千人は30年以上、透析をうけつづけているそうです。
困窮者支援の現場でも腎臓病、腎不全という既往症を目にしますが、SSSの運営する無料低額宿泊所の全利用者4,708人のうち44人(約0.9%)がYさんと同じように人工透析をうけるための通院をしています。(2018年7月1日現在)
慢性腎臓病は初期に自覚症状がほとんどないと言われ、むくみ、貧血、だるさ、息切れといった症状が進行すると重度化して腎不全へとつながります。
ホームレス生活を送ってきた人をはじめ、健康診断をうけずに生活してきた人は、なおさら自分の健康状態に注意が必要ではないでしょうか?
さて、Yさんの話に戻りましょう。
65歳で幕張荘に入所し、以来16年以上、人工透析をうけてきたYさん。
「これからどうしていきたいですか?」と聞いてみたところ、「1人ぐらしはムリ」「できれば離れたところに住む息子といっしょに生活したい」とのこと。
しかし、離婚をしてから数年ごとに顔をあわせる程度となった息子さんに
「いっしょにくらしたい」と切り出せたことは今まで一度もないそうです。
「透析の先輩達も亡くなっている」
「先がない。もう終わり」とも話すYさん。
次は、さらに核心に迫りたいと考え、「酷」を承知で尋ねました。
「これ以上、長生きする意味はありますか?」
すると、意外な答えが返ってきました。
「日本は100歳時代。自分との挑戦がいくらでも必要!」
力強く答えるYさん。
驚いたので、さらにYさんにとっての挑戦が何かを聞いてみたところ、
「毎日、握力を鍛えるグリップを握っている」
「そうすると、土いじりが好きで、たまにやっている草むしりが楽にできる」と笑顔で答えてくれました。
聞けば、聴力障害のための補聴器をつくった時には、
「何十年ぶりかで普通に人と話せる」と大喜びし、周囲の利用者にジュースをふるまったこともあるとのこと。
私は、インタビューの途中まで「透析に縛られた生活をしている」と思い込んでいましたが、Yさんは自分なりに「挑戦」を意識し、充実した生活を送っているのではないかと感じました。
Yさんほどではないにしても、なんの制約もうけない人生はありえません。
このケースは、自分なりの「生きる意味」を考える1つの参考になるのではないでしょうか?
文(聞き手):竹浦史展
取材日:2018.7.18
千葉市花見川区幕張本郷3-22-5
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