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更新日:2018.03.28

無料低額宿泊所における生活支援が
「孤独死」を防ぐ

当事者インタビュー:Tさん(男性・62歳)

#東京 #60代 #要介護 #孤独死

単身高齢者への見守りサービス

日本の高齢者のうち、独り暮らしの割合は男性が13.3%、女性が21.1%と著しく増加傾向にあります。(2015年数値、平成29年版内閣府高齢社会白書より)
1人で生活している間、万が一急に具合がわるくなった時に備えて、合いカギを預かったり、定期巡回を行うサービス、赤外線センサーなどの機械を利用した「見守りサービス」が活用されてきています。
しかし、こういった安否確認だけではなく、日頃から周囲の人とのコミュニケーションをはかり、つながりを持つことも「孤独死」を防ぐためにはとても重要です。

今回のインタビューは、年齢的には高齢者にはまだ含まれませんが、これまでに
2度の脳出血、急性腎盂(じんう)腎炎、さらには急性大動脈解離まで発症し、そのたびに救急搬送され、九死に一生を得たTさんのお話です。

集団就職で上京

北海道で7人兄弟の末っ子として育ったTさん。
子どもたちのうち一人くらい東京へ出そうという家族の意向で、昭和45年「金の卵」として上京しました。

昼間は鉄工所で溶接の仕事をしながら、夜間は工業高校へ通うハードな生活。
まだ若く「勉強も好きではなかった」Tさん。
寮の仲間に誘われ、次第に夜学には行かず麻雀をするようになり、高校を中退。
「よほど根性があるヤツでないと学業は続けられなかった」
7年ほど勤めたところで鉄工所も辞め、叔父の紹介で家庭用品の販売営業に転職しました。

人づきあいからギャンブルへのめりこむ

転職先で、ギャンブル好きな得意先の担当になったTさん。
最初はつきあいで行っていた麻雀に加え、競馬にもはまってしまいます。
土日は一日中、場外馬券売り場で過ごすようになり、給料以上に競馬にお金をつぎこむうちに、サラ金からの借金は数百万になっていました。
それでも「次こそはあてて返済できる」と、一攫千金の夢を見てしまうのがギャンブルの怖いところです。

サラ金からの取り立てが厳しさを増し、とうとう会社にまでチンピラがおしかけてくる始末。 それを知った支店長から「明日からこなくていい」と解雇を言い渡されました。

人づきあいから拾う神あり

会社寮を追い出され住むところもない、お金もないTさんでしたが、運よく
「拾う神」が現れました。
いきつけの寿司屋の親父さんが「うちで働かないか」と声をかけてくれました。
そして、なんとTさんの借金を知った上で、アパートも用意してくれたのです。
ワラにもすがる思いで、出前担当をはじめ、そのうち板場の修行もさせてもらえたものの、内心「寿司屋はオレには向いていない」そう思っていました。

4年ほどの月日がたったころ、ちょっとしたことで親父さんと口論になり、
「もう明日から辞める」と店を飛び出してしまいました。

しかしここでも、Tさんの人なつこさから、「拾う神」が登場します。
雀荘で以前から知り合いだった建設会社の社長から「うちにおいで」と誘われたのでした。

やりがいのある仕事に出会った

その建設会社では建物の基礎工事全般を請け負っていました。
知識も技術もなかったTさんでしたが、20代後半でまだ若く覚えも早い。
仕事に関係する資格試験の勉強に励み、杭打ち機、車両系建設機械、移動式クレーン、電気通信設備工事担任者など様々な免許を取得しました。

「がんばれば昇進できて、やりがいもあった」
3年でチームリーダーを任され、収入も相応に増えていきました。
「自分に向いた仕事に出会い、この時が一番よかった」と振り返ります。

脳出血がターニングポイント

それから経験を積み、資格も得て、地盤改良に関わる仕事を15年間続けました。
建物をささえるために必要な地盤の深さやセメント材料の計算も行う高度な仕事でした。

しかし、ある日社長から「言動やしぐさがおかしいから病院へ行ってこい」と言われ、検査をうけたところ、脳出血が見つかり入院を余儀なくされました。

このことで、会社は辞めることになりましたが、経験と技術を買われ、退院後にはボーリング工事を行う兄弟会社に就職できることになりました。

けれど、その2年後、2度目の脳出血により再び倒れ、仕事を続けることはできなくなってしまいました。

無料低額宿泊所での生活

現在、Tさんは生活に困窮した人の自立を支援する施設「船堀荘」(江戸川区内の無料低額宿泊所)で生活しています。
脳出血の後遺症から、身体障害4級、要介護2の認定を受けており、杖をついて歩いています。
週3回デイサービスのある日は、送迎車で通所施設へ行き、入浴や食事、レクリエーションをして過ごし、それ以外の日は週3回介護ヘルパーが施設に訪問し、着替えや掃除・洗濯・買い物などを手伝っています。

この施設にはエレベーターがあり、Tさんの居室があるフロアにはトイレや食堂もあることから問題なく生活できるだろうと、福祉事務所のケースワーカーがすすめてくれたと言います。

施設内で助けられた

船堀荘に入所してからも、Tさんは2度緊急入院をしています。
1度目は、具合がわるくなり震えがとまらなくなったTさんを見た施設長が救急車を要請し、搬送され、急性腎盂(じんう)腎炎が見つかりました。
2度目は、同室者の人が朝食後にTさんが部屋に戻らないのをおかしく思い、トイレで動けなくなっているところを発見。やはり施設から救急車を要請し、今度は急性大動脈解離という心臓の病気が見つかり、手術を受けました。

脳出血で不自由な体になった上、次から次へと違う病気により急変したTさん。
「施設長やケースワーカーはとてもよくやってくれるし、みんな人がいいから居心地がいい」
「オレが一番迷惑をかけてるんじゃないかな」

もしも、アパートで一人暮らしをしていたら、冗談を飛ばしながら質問に答える今のTさんには会えなかったかもしれません。

インタビューを終えて、部屋を出ると、他の利用者の人たちが「おつかれさん」「たのしかった?」とTさんを笑顔で迎えていました。
人なつこさから窮地にも陥ったTさんですが、現在は生活支援を受け周囲の人たちに見守られながら生活しています。
単身高齢者への見守りサービスは、このように人と人とのつながりの中で生まれるのではないでしょうか。

文(聞き手):梅原仁美
取材日:2017.11.30

船堀荘(無料低額宿泊所・定員30名)

江戸川区船堀3-2-22
〔お問い合わせ〕
NPO法人エスエスエス 東京支部
0120-346-850

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