「あなたの仕事はどれくらい先まで残っているでしょうか?」
倒産による失業や定年退職という意味ではなく、職種として仕事自体の存続が危ぶまれるのではないかという意味での質問です。
「なくなる訳がない」と反論が聞こえてきそうですが、
AI(人工知能)の技術革新により「今後10年~20年ほどで約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」という論文がオックスフォード大学(マイケル・A・オズボーン准教授ら)より発表され、2017年に話題になりました。
また、AIだけでなく仮想通貨やドローンなど、技術革新が私達の生活をより便利にし、新たな可能性を生み出していく一方、それらがヒトの仕事を奪っていくという矛盾を抱えた将来もやってくるのかもしれません。
今回の当事者インタビューは、かつて電話が普及しはじめた頃から「交換機」の電話工事に携わった男性が生活困窮にいたるお話。
時代はちがえど、「仕事がなくなるリスク」について警鐘を鳴らします。
携帯電話が一般に普及しだしたのは今から20年ほど前の1990年代。
それまでの通信手段は、固定電話が主なものでした。(ポケベルも一時流行しましたね)
Sさんは、このさらに30年ほど前、1960年代にまだ人々が「電話交換所」の「交換手」を介して電話していた時代から「交換機」に関係する工事に携わりました。
中学卒業と同時に15歳からこの電話工事をはじめ、最初は親類や知人のもとで経験を積み18歳の時には一人で仕事を請け負うように。
ちょうど電話が急速に普及しはじめ、交換手にかわって交換機が整備されていった時代。
全国各地の「電話交換」のあり方がまさにヒトから機械に変化していく最中で、ケーブルの敷設や接続を手がけるSさんは仕事に困ったことがなく、 「履歴書を書いたことがない」というほどでした。
約30年間、電話工事に携わってきたSさん。
時には中東-イラクまで出張するほど電話工事の業界で活躍していましたが、1990年代後半にインターネットが普及しはじめると状況が変わります。
従来の交換機にかわってデジタル式の交換機が出現。しかも、デジタル交換機の電話工事に従来のノウハウは必要ありませんでした。
毎月60万から70万円ほどあった収入は半減。
さらに、Sさんは税金の督促によって深刻な事態に陥ります。
税務上、人件費を経費算入するためには受領書や振込履歴等による証明が必要となります。しかし、自分が雇った職人やアルバイトへの報酬の証明を何も用意していなかったSさん。
最終的には500万円以上におよぶ税金の督促を受けることになってしまいました。
交換機がデジタル化し、目に見えて収入が減った時期と税金の督促が重なり、Sさんは46歳にして人生の斜陽を迎えることとなりました。
毎月の稼ぎをお酒と競馬に使い貯金をしていなかったSさん。
税金を納めることができず、
思いつめて行きついたのは「いっさい自分を抹殺する」ということ。
そして、Sさんは電話工事から身を引き、当時、身分証明を求められることが少なかった土木工事の業界に身を投じます。
以来20年間、Sさんは土木工事で全国の現場を転々とし、最終的には神奈川県内の社員寮つきの職場に落ち着きました。
65歳をこえ結婚歴なし。実家の両親も他界し、兄や妹とは音信不通。
貯金はなし。持ち家もなし。税金は未納のまま・・・。
とある日のこと。Sさんを大きな災難が襲います。
10人ほどで歩道の植木の剪定作業をしていたところ、足を枝から踏みはずし、6メートルほどの高さから転落。
幸い命に別状はなかったものの、ヘルメットは割れ、右足のヒザから足首の間に骨が見えるほどの裂傷を負い、15針縫う大ケガをしました。
治療をしながら社員寮で待機していると、会社から「もう歳だから、やめてくれ」と最後通告を受け、Sさんの職業人生は66歳で幕をとじました。
1か月ほどは、先に引退していた職場の友人宅に身を寄せていましたが、それも気まずくなり、「住む場所がない」「お金がない」と警察署に相談。
そこから、さらに市役所へとつながりました。
市役所で生活保護の申請をすることになりましたが、足のケガの状態もあったことから、生活に困窮した人の自立を支援する「スマイルホーム千代ヶ丘」(神奈川県内の無料低額宿泊所)に入所することになりました。
施設に入って2年半が経過し、現在では足の状態もほぼ回復。
入所当時、数値に問題があった糖尿や血圧も通院と服薬で安定するようになりました。
つい最近、生活保護を担当するケースワーカーから、もともと住んでいた地域でアパート生活するよう提案がありましたが、Sさんは「知ってる人が多く、生活保護を受けていることに引け目を感じる」と転宅を断りました。
50年以上、勤労の義務を果たしてきたSさん。
しかし、納税の義務は果たせず、年金もかけてきませんでした。
「将来への備え」を怠ってきたことは自身の責任であり、技術革新に仕事を奪われていまの窮状があるとは言い切れません。
「若い時、お金を貯めておかないと絶対ダメ」とSさんは言います。
また、住まいについては、「歳をとったら実家に帰ればいい」と考えていたそうですが、疎遠になってから「もうどうなってるか分からない」
「妹が住んでるかもしれないけど、落ちぶれて今さら合わせる顔がない」と諦め顔です。
いまの私達の仕事が将来なくならない保障は何もありません。
時代の変遷、技術革新とともに「仕事がなくなるリスク」へ備えていくことも自己防衛につながるのではないでしょうか?
文(聞き手):竹浦史展
取材日:2017.11.16
神奈川県川崎市麻生区千代ヶ丘3-18-8
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NPO法人エスエスエス 神奈川支部
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