内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査」(平成26年)より加工
※調査対象は全国65歳以上の一人暮らし男女
日本の高齢化率は27.3%(2016年10月1日現在)
世界でもっとも高い水準です。
自分の老後をどのように送るか、あなたは明確なイメージをもっていますか?
「子どもに面倒をみてもらう」
「自分のことは自分でなんとかする」
このように考えている人も多いかもしれませんが、実際のところ「老後」と聞いてもピンとこない人は意外と多いのではないでしょうか。
内閣府の「一人暮らし高齢者に関する意識調査」(平成26年)では、すでに老後をむかえている単身高齢者のうち、子どもがいる男性で約4割、女性では6割近くが病気などの時に看病や世話を子どもに頼りたいという結果がでています。
とは言っても、家族円満で経済的なゆとりがある人ばかりではない時代。
今回の当事者インタビューは、子どもを頼りたくても頼ることができなかった男性のお話です。
Aさん(男性・79歳)は、生活に困窮した人の自立を支援する施設「八王子ドゥーム(東京都内の無料低額宿泊所)」に入所して丸2年。
過去には、都営住宅の抽選に申し込みをしたこともありましたが、最近では年齢のことも考え「ここで満足。足腰が動く間はお世話になりたい」と方向を転換しました。
もう少しで79歳となるAさん。血圧を安定させるために毎日4キロ歩くことを日課にしており、今年に入ってからはお正月をのぞいて1日も休んでいません。
頭は白髪。顔や腕は日に焼け、温厚な人柄がにじみでています。
Aさんは、母親の介護をしていた2年間ほどをのぞき、70代のなかばまでずっと仕事をしてきました。一番長かったのは百科事典の営業マン。
若いころから大手出版社の下請けなどを渡り歩き、完全歩合の営業で30年以上、家族を養いました。60代なかばから現役最後に働いたのはリフォーム店。ここでも完全歩合の営業マンとして成績をあげました。
しかしながら、これほど働いてきたAさんでも年金の加入期間は少なく、年間60万、月にすると2万5千円程度の受け取りしかありません。以前は多少の貯えもありましたが、仕事を引退してからは生活費のほとんどを生活保護に頼らざるを得ない状況です。
家族がいて、仕事もマジメにやってきた。
それでは、なぜAさんは施設で単身生活を送っているのでしょうか。
その理由はAさんの家族関係にあります。
実はAさんは、20代で離婚したシングルファザー。
離婚当時、子どもは3人。
身の回りのことができるようになっていた小4の長女を元妻が引き取り、5歳の次女と3歳の息子をAさんが引き取ることになりました。
すでに百科事典の営業マンとして身を粉にしていたAさん。
自分の母親、子ども達からするとおばあちゃんを頼りに同居を開始し、家事や育児のほとんどを任せる生活となりました。
子ども達に不自由な思いをさせたくないと考えていたAさん。
帰宅はいつも遅く、休日もほとんどの時間を営業にあてました。
はじめに歯車が狂いだしたと感じたのは、息子が高校へ進学せず就職の道を選んだこと。勉強についていけず、素行不良な面もあった息子。仕事にはついたものの、自動車免許を取得後はスポーツカーを乗り回すようになります。
この車のローンの連帯保証人には、ほかでもないAさんが署名捺印しました。
また、ここからさらに数台に渡り連帯保証人になったことで、息子の支払いが滞ると、その都度Aさんが尻ぬぐいをする悪循環。
娘は20歳で結婚し、家を出ました。唯一の救いは、たびたび起こる言い争いをおばあちゃんが間に入って仲裁してくれていたことでした。
家族関係の破綻はおばあちゃんの他界とほぼ同時に訪れました。
もうAさんと息子の争いを止めてくれる人は誰もいません。
ガードマンの日払いの給与をもらってはスロットにつぎ込む息子。
話し合いを何度となくかさねても、家賃や生活費はおろか駐車場代まで一切、家にお金を入れようとしません。
ずっと子どもに手をあげたことのなかったAさんでしたが、とある日のこと、ついに台所から包丁をもち出し、金属バットをもつ息子と対峙しました。
結果はかえり討ち。鼓膜がやぶれたのではないかと思うほど殴られました。
こうしてAさんは、「もう一緒に生活できない」「将来、面倒をみてもらえない」と、60代なかばにして家を飛び出し、リフォーム店の営業マンをしながら社員寮で生活するようになりました。
その後、70代なかばまで10年近く営業の仕事を続けましたが、社員寮の廃止と腰痛で退職が決定。職場で聞いた生活保護を市役所に相談し、施設への入所が決まりました。
Aさんは、母親の存在がない中で、勉強をみてあげたり、相談にのってあげられなかったことを「オレが悪いんだ」「やっぱり(子育ては)金銭的なものだけじゃない」と悔やみます。
Aさんのお話は極端なケース。あなたの老後や家族関係とはかけ離れているかもしれません。でも、Aさんのように子どもを頼るどころか、依存的に頼りにされている人もいるでしょう。
もし、あなたに家族がいて老後を頼りたいと考えているなら、まずはじめに家族との関係を見つめなおしてみてはいかがでしょうか?
文(聞き手):竹浦史展
東京都八王子市(詳細、非公開)
※単身男性のほか、女性、母子、夫婦世帯の受け入れ可能
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